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灰と薔薇の夜想曲~灰の夜想曲~ 04


どれ程の時間が経ったのか。
体が軋み、全身が痛みを伝える。
甦るレルムさんの声。

「お前は人に媚びないと誰からも見向きもされない人間だ。可哀想だな。
 俺の言葉を信じて、大人しく俺に従っていれば良くなれるのに」

……それなら俺は。
今の俺は、何なんだ。

******

レルムさんと会ったのは一年前。
町の蚤の市でのことだ。
彼はキラキラと輝く鱗や羽根、不思議な植物を売っていた。
「綺麗だね。見ていて別の世界に行けそうな気になる」
置かれたものはどれも興味深く、思わず声をかけた。
「だろ?まぁ見てけよ。これでもまだ一部だが、自慢の逸品ばかりだからな?」
おどけた口調でそう言いながら挑発的に、自信たっぷりに笑う。
その時はそこまでだった。
綺麗なものを見せてもらった。
またどこかで見られたら。


暫くして他の収集好きから声をかけられた。
「気になってるって言ってたレルムが今夜のパーティーに来るんだ。よかったら参加しないか?」
俺は喜んで参加を伝えた。
またあの不思議なものたちがみられる。
胸を踊らせ、クローゼットから迷わず一番良い衣装を用意し、着飾った。
一番の宝物を持っていった。
何か話せるだろうか。話せるなら、何を話そう。どんな話が聞けるだろう。
レルムさんは幸い、俺を気に入ってくれたようだった。
時におどけて、時に熱をもって。
人を飽きさせない話し方に思わず聞き入ってしまう。
そんな姿を気に入られたのか二人になった時にここだけの話、と鱗の採集場所、不思議な花の育て方などを聞かせてくれた。
話が出来る光栄を、感謝を伝えた。
それからパーティーでも同席する機会が増え、二人で会うようにもなった。
仲良くなり、互いをクラナ、レルムと名前で呼び合うようになった。
異変は、ここからゆっくりと始まった。


「ガラクタばかり集めてどうするんだ?」
ある日、レルムは俺に問うた。
「ガラクタじゃないよ。これも大切な、モノや持ち主の生きた証なんだ。
 集められるものは限られるけど、その分愛しい。
 これでも好きだって言ってくれる人もいて…」
「それは、お前が媚びてるからだろ」

いつものおどけた口調ではない、凍りつくような声。
「レルム…?どうし…」
「お前の周りに人がいるのは、お前が声をかけて媚びているからだ。
 多少は物珍しさや趣味もあるだろうが、媚びてすり寄っているからその返事として好きだと言われているだけだ。
 いわば勝ち取った社交辞令。
 本当のお前は俺を含め、誰にも見つけられることのないガラクタ未満。
 可哀想な奴だな。そんな奴が罪深くも人と、俺と同じ場所にいると勘違いをして」
あまりの変化についていけない。
何か悪いことをしたのだろうか。
レルムはいつも人に囲まれ、収集仲間の誰からも慕われているんだから、嫉妬というわけでもないだろう。
「お前は好かれているんじゃない。好かれていると錯覚できる境遇を作っているだけだ」
言葉が皮膚を焼く。
心を容赦なく突き破る。
俺は、好きだから好きだと言ったはずだ。
好きだと言われたいから言っていたのか?

……いや、その気持ちは無いわけではないだろう。
少なくともあの日も、さっきだってこんなふうに言われることを期待して話しかけたわけではないから。
ガラクタ未満の俺が…罪深くもレルム『さん』や収集仲間たちと話がしたいと思ってしまった。
俺は、どうすればこの罪から許される?そもそも許されることはあるのか…?
ショックが大きく、考える力を根こそぎ奪われていた。
「んー……ねえ、よかったら、だけど。俺が、人になれるようお前を指導してやろうか?」
レルムさんはいつもの口調に戻っていた。
しかし、俺はいつもの立ち位置に戻れなかった。

「……お願い、します」
断るという選択肢はなかった。
あのときの『断罪人』レルムさんの顔を、罪人である俺は見ることが出来なかった。


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