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灰と薔薇の夜想曲~灰の夜想曲~ 02


月が顔を出し、静寂が支配する時間となった。
男たちの言っていた道を辿り、俺は庭園へとたどり着いた。
廃庭園、という言葉が相応しくないような、手入れされた薔薇の園が現れ、どこか似つかわしくないような気持を抱きつつも足を踏み入れた。
甘く高貴な香り。これはきっとそういうものなのだろう。
拒絶されれば帰ればいい。
詫びの代わりに二度とこないと約束をしよう。
そんなことを思いながら歩を進める。


「お茶を飲んでいくかい?」
薔薇の香りにも慣れてきたころ、不意に人影が現れた。
美しい銀髪を持つ、美しい姿。
人の形に『美しい』などと思ったのは初めてだった。
だがその美しさの中に、俺は影を見た気がする。
どこか覚えのある影。
それが、俺の姿を捉えた。
あまりに驚き、しばらく答えることも出来なかった。
その言葉が俺に向けられていると気付き、頷くことが出来たのはしばらく先の事だった。

******

紅茶を注ぐ姿を眺める。
あぁ、確かにこの人は幽霊だろう。
心臓から遠い部分が透けている。
だが、そんなことは些事でしかない。
薔薇のほかに、新たに加わった茶の柔らかな香りが心地よい。
茶を出され、礼もそこそこに。
まず、この庭園を見たときに主が俺を捉えられたら伝えようと決めていたことを口に出す。
「ここの薔薇、大切にされているのが見えて…俺は自分の感じたことでしかものが言えないが、この庭園の薔薇が好きだと思わせてもらった。 いいものを見せてもらえて感謝している。ありがとう」
感謝などと恥ずかしいことを口にしたのはいつぶりか。
そもそも人と話したのがいつぶりか。
自分の顔が熱くなるのを感じ、慌てて紅茶に口を付けた。

大切にされている、そんな味と香りだった。


→屋敷の表に出る
→光差す庭園へ帰る