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灰と薔薇の夜想曲~灰の夜想曲~ 01


ただ、誰かの心に触れたいと願った。
見上げれば月光が、割れた窓から朧気に差し込んでいた。
そういえば、いつからここにいるのだろう。ずいぶん昔に主を失った、古い屋敷。
家財道具も全て残ったまま、部屋ごと埃を被っていた。
部屋を見回せば、古今東西から集めてきたものたちが雑然と並んでいる。
小さな杯、役目を終えた香水瓶、アンティークのミラー。動かないタイプライタやインクの製造も終了した万年筆。
他にも多くの『ガラクタと呼ばれるもの』が並んでいる。
それは、それでも俺にとって、『宝物』だった。
感性に合った、呼ばれた…と言っても良いようなものたち。
無駄なものなんて…

「あるわけない」

大きなソファに気怠く腰を下ろしたまま、それを否定した。

******

その日は天気がよかった。
いつもしまっておくのも……と集めたものを庭に並べ、それらと共に心地よい風を受ける。
並べた物達が心地よければ良い。
そう思いながら屋敷を見る。屋敷のなかにも風を入れようと思い立ち、門も開けて家中の扉と窓を解放する。
不用心に大きな屋敷を解放しようと、『宝物』の中には案外高価なものが混じっていようと何も心配は要らない。
俺は、誰の目にも留まることがない。
廃墟が解放されていることも。
そこに人がいることも。
その人が、ガラクタと共に庭で風を受けていることも。
誰も不審には思わない。
他人の視界にそもそも俺がいないから。
「…俺は生きているんだろうか?」
そんな疑問すら沸いてくる。
ぼんやりと近くにある、脚に細工の入ったワイングラスを手にする。
その時、屋敷の前を歩く二人連れの声が聞こえた。
「この近くの廃庭園……出るらしいぞ」
「出る、って何だよ」
「幽霊」
興味などなかったはずだが、幽霊が見える、という奇怪な話に思わず耳を傾ける。
「は!?どうせ物盗りが入ってったんじゃねぇのか、普通だろそんなの」
「いや、それがな。その幽霊は入ってきた奴に茶を出してくれるらしい」
「幽霊の喫茶店?ははっ、そりゃ面白え!ちょっと冷やかしに行ってみるか」
「ああ、この先を…」
男たちが向かう先を見つめつつ、考えた。
本当に幽霊なのか…?幽霊は見えないものなんじゃないのか…?
『見える』というそれに羨望と疑問を抱き、小さく首をかしげる。

「……夜にでも向かってみるか。幽霊といえば夜だろうし」
そいつには、俺が見えるだろうか。
いや、もしそいつには俺が見えて他の奴には見えていないなら、まさか俺は本当に…?
少しの期待と不安を抱え、風に痛んだままの髪を遊ばせた。


→屋敷の表に出る
→光差す庭園へ帰る